5.4 筋肉という資産

第5章:物語と創作に対する思考

—盗まれず、減価しないポートフォリオ—

シラチャの午後。 ジムの片隅で、コーチーは若手選手にミットを構えていた。 その背中は、まるで彫刻のようだった。 無駄がなく、機能的で、美しい。 先生は、静かにその姿を見つめながら、ノートにこう記した。

「筋肉には、数千万円の価値がある。 高価な服装の代わりにもなるし、 アンチエージングの薬にもなる。 しかも、インフレで価値が下がらないし、盗まれるわけもない」

先生は、かつての投資仲間を思い出した。 高級時計、ブランドスーツ、整形手術。 それらは、外部から“付加”された資産だった。 だが、コーチーの肉体は、内側から“築かれた”資産だった。

「筋肉は、自己完結型の資産である。 維持には努力が必要だが、維持できれば価値は落ちない。 しかも、他者に奪われることはない。 それは、最も“非流動的”でありながら、最も“安定した”ポートフォリオだ」

先生は、ふと自分の腕を見た。 旅と執筆と投資に費やした年月。 その間に、身体は少しずつ“資産”としての機能を失っていた。

「僕は、金融資産を築いてきた。 だが、身体資産は、見過ごしてきたかもしれない。 コーチーの肉体は、僕のポートフォリオに欠けていた“問い”を突きつけてくる」

その夜、先生はエッセイの最後にこう記した。

「資産とは、数字だけではない。 筋肉は、最も誠実な資産である。 それは、努力の証であり、 他者へのメッセージでもある。 僕は、彼の体を羨ましいと思った。 それは、僕がまだ“身体への問い”を持っている証拠だ」

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