—盗まれず、減価しないポートフォリオ—
シラチャの午後。 ジムの片隅で、コーチーは若手選手にミットを構えていた。 その背中は、まるで彫刻のようだった。 無駄がなく、機能的で、美しい。 先生は、静かにその姿を見つめながら、ノートにこう記した。
「筋肉には、数千万円の価値がある。 高価な服装の代わりにもなるし、 アンチエージングの薬にもなる。 しかも、インフレで価値が下がらないし、盗まれるわけもない」
先生は、かつての投資仲間を思い出した。 高級時計、ブランドスーツ、整形手術。 それらは、外部から“付加”された資産だった。 だが、コーチーの肉体は、内側から“築かれた”資産だった。
「筋肉は、自己完結型の資産である。 維持には努力が必要だが、維持できれば価値は落ちない。 しかも、他者に奪われることはない。 それは、最も“非流動的”でありながら、最も“安定した”ポートフォリオだ」
先生は、ふと自分の腕を見た。 旅と執筆と投資に費やした年月。 その間に、身体は少しずつ“資産”としての機能を失っていた。
「僕は、金融資産を築いてきた。 だが、身体資産は、見過ごしてきたかもしれない。 コーチーの肉体は、僕のポートフォリオに欠けていた“問い”を突きつけてくる」
その夜、先生はエッセイの最後にこう記した。
「資産とは、数字だけではない。 筋肉は、最も誠実な資産である。 それは、努力の証であり、 他者へのメッセージでもある。 僕は、彼の体を羨ましいと思った。 それは、僕がまだ“身体への問い”を持っている証拠だ」

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