4.6 裏切りと確率の中で

第4章 金融と投資に対する一考察

4.6 裏切りと確率の中で
—信頼は破られる。だが、問いは続く—

半年後、先生のもとに一通のメールが届いた。 差出人は、ナロンではなかった。 件名は「TrustRootsの資金流用に関する報告」。 内容は、ナロンが投資資金の一部を、別のプロジェクトに転用していたというものだった。 そのプロジェクトは、彼の従兄弟が運営する“農業用ドローンの販売事業”。 村の信用記録システムは、途中で止まっていた。

先生は、驚かなかった。 むしろ、静かにノートを開き、こう記した。

「信頼は、破られるために存在する。 投資とは、確率的確信。 10人に1人が世界を変えるなら、9人の裏切りは“必要経費”だ」

その夜、先生はバンコクのバーで、アナン氏と再会した。 彼は、ナロンの件を知っていた。

「君は、怒ってないのか?」とアナン氏が尋ねた。

先生は、グラスを傾けながら答えた。 「怒る理由がない。 僕は、ナロンの“問い”に投資した。 彼がそれを裏切ったなら、それもまた“答え”だ。 問いは、次の誰かに渡せばいい」

アナン氏は、しばらく黙っていた。 そして、静かに言った。

「それができる人間は、少ない。 君は、問いを信じてるんだな」

先生は微笑んだ。 「問いは、裏切らない。 人は、時に裏切る。 でも、問いは常にそこにある。 僕は、それを拾い続けるだけだ」

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