盗難が発覚した翌朝。 トシ先生は、ホテルのロビーで静かにコーヒーを飲みながら、過去の記憶を辿っていた。 韓国での交渉。バンコクでの裏切り。ジョムティンでの再起。 そして今、マレーシアでの“問いの装置”の喪失。
「これは、ただの技術盗難ではない。 哲学が試されている」 そう感じた瞬間、彼は決断した。
探偵を雇う。 ただの情報収集ではなく、“問いを持つ者”を探すために。
紹介されたのは、元諜報員であり、現在は東南アジアを拠点に活動する私立探偵——名をアリフ。 彼は、静かにこう言った。
「盗まれたのはコードではなく、あなたの“問いの構造”ですね。 それなら、犯人はそれを理解できないはずです。 私は、“理解できない者”の痕跡を追います」
アリフは、ホテルの監視映像、Wi-Fiログ、そして開発ミーティングに出入りしていた人物の背景を洗い始めた。 彼の調査は、技術的というより“心理的”だった。
「盗む者は、必ず“自分の問い”を隠している。 それを見つければ、足跡が見える」
数日後、アリフは一枚の写真を差し出した。 そこには、かつて先生が“問いを共有した”と思っていた投資家の一人が映っていた。 彼は、コードを盗み出したが、AIを起動できずにいた。
「彼は、問いを持たない。 だから、AIは沈黙している。 あなたの設計は、盗まれても“語らない”ようになっていた。 それは、技術ではなく哲学の勝利です」
先生は、静かに頷いた。
「問いを持たない者には、問いの装置は動かない。 それが、我々の布石だった」


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