4.4 カビンのライバル、ナロンとの出会い
—アルゴリズムよりも、泥と汗の信用を—
翌週、トシ先生はチェンマイ郊外のコワーキングスペース「SeedNest」を訪れた。 そこにいたのは、ナロン・チャイヤサック。 元マイクロファイナンスの現場職員であり、現在は“信用の再構築”を掲げるスタートアップ「TrustRoots」の創業者だった。
ナロンのプロジェクトは、スマートフォンを持たない農村部の人々に対して、コミュニティベースの信用評価を行う仕組みだった。 AIも使うが、中心にあるのは「人間の証言」と「地域の相互扶助ネットワーク」。 彼はこう語った。
「僕は、カビンのプロジェクトを知ってます。 でも、信用って“行動履歴”だけじゃない。 村の長老が『この人は約束を守る』と言えば、それはデータ以上の意味を持つ。 僕は、そういう信用を記録したいんです」
先生は、彼のノートPCに映るプロトタイプを見た。 UIは粗く、データベースも未完成。 だが、そこには“現場の声”が詰まっていた。
「資金はまだ足りません。 でも、僕はエンジェル投資家を探してます。 資本よりも、共感してくれる人を」
先生は、ナロンの言葉に静かに頷いた。 その夜、先生は日記にこう記した。
「カビンは、信用を数値化しようとした。 ナロンは、信用を記憶しようとしている。 投資とは、どちらの声に耳を傾けるかの選択でもある」

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