—論理と違和感の狭間で、問いは深まる—
バンコクの中心部、ガラス張りの高層ビルの一室。 その夜、カビンが主催する投資募集発表会が開催された。 会場には、東南アジアの投資家、テック系起業家、メディア関係者が集まり、熱気と期待が入り混じっていた。
トシ先生は、アナン氏と並んで会場に入った。 受付では、QRコード付きの招待状とともに、カビンのプロジェクト概要が記されたパンフレットが手渡された。 タイトルは「信用の民主化:分散型スコアリングによる金融包摂の未来」。
ステージに立ったカビンは、黒のシャツに身を包み、滑らかな英語で語り始めた。 「私たちは、信用の再定義に挑戦しています。 銀行が見捨てた人々に、信用を与える。 そのために、AIとブロックチェーンを融合させた“分散型信用スコア”を開発しました」
スライドには、技術的な構成図、予測される市場規模、そして“社会的インパクト”の数値が並んでいた。 論理は明快だった。 だが、先生はその“完璧さ”に、どこか居心地の悪さを感じていた。
プレゼンの後、質疑応答が始まった。 ある投資家が尋ねた。 「信用スコアの根拠となるデータは、どこから取得するのですか?」
カビンは即答した。 「スマートフォンの利用履歴、位置情報、SNSの言語解析などです。 人間の行動は、信用の予測因子になります」
その答えに、会場は静まり返った。 先生は、アナン氏の横顔を見た。 彼の眉が、わずかに動いた。
発表会の後、カクテルレセプションが始まった。 先生は、カビンに声をかけた。
「君のプロジェクトは、技術的には見事だ。 でも、信用とは“人間の関係性”だと思う。 データで測れる部分と、測れない部分がある。 その境界を、どう扱うつもりなんだ?」
カビンは、少し笑って答えた。 「先生、境界は曖昧だからこそ、アルゴリズムで明確にする必要があるんです。 人間の感情は、誤差です」
その言葉に、先生は静かにグラスを置いた。 「誤差の中にこそ、問いがある。 僕は、誤差を排除するより、誤差に耳を澄ませたい」
その夜、ホテルに戻った先生は、ノートにこう記した。
「完璧な論理は、美しい。 だが、問いは、論理の外にある。 投資とは、違和感を抱えたまま、問いを持ち続ける勇気である」

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