3.2 ジョムティンでの交渉と出会い
—数字の裏にある人間の温度を読む—
ジョムティンビーチのマンションを購入したとき、 僕はただ「安かったから」動いたわけではない。 バーゲン価格の裏には、必ず理由がある。 その理由を探るために、僕は現地の不動産屋に足を運んだ。
店の名前は「Siri Property」。 小さなオフィスに、年季の入った木製の机。 対応してくれたのは、ナンタさんという50代の女性だった。 彼女は、英語とタイ語を交えながら、物件の説明をしてくれた。 だが、僕が聞きたかったのは、パンフレットに書かれていないことだった。
「なぜこの物件は、こんな価格で売られているんですか?」 僕がそう尋ねると、ナンタさんは少し黙ってから答えた。
「オーナーはバンコクの人です。 パンデミックのあと、ここに来なくなりました。 管理費だけがかかるので、手放したいそうです」
それは、数字では見えない“生活の断絶”だった。 僕はさらに聞いた。 「この建物の住民は、どんな人たちですか?」 ナンタさんは笑って言った。
「半分はタイ人、半分は外国人。 でも、みんな静かで、長く住んでいます。 ここは“観光地”じゃなく、“暮らしの場所”です」
その言葉が、僕の中で確信に変わった。 この物件は、数字ではなく“空気”で買うべきだ。 生活の匂いがする場所にこそ、価値がある。
交渉は、意外なほどスムーズだった。 オーナーはすぐに価格を下げ、 僕は現地の弁護士と契約を結び、 数週間後には鍵を受け取った。
だが、真の出会いはその後だった。 マンションの隣に住んでいたのは、アメリカ人のジョージ。 60代で、元はニューヨークの証券会社に勤めていたという。 彼は、毎朝ビーチを散歩し、午後はバルコニーで読書をしていた。
ある日、僕が廊下で彼に挨拶すると、彼はこう言った。
「君、日本人か。珍しいね。 ここは、静かに暮らしたい人が集まる場所だよ。 投資家もいるけど、みんな“生活者”だ」
ジョージとは、それから何度も話した。 彼は、株式と不動産の両方に精通していたが、 「数字だけで動く奴は、ここには向かない」と言っていた。
「数字は、都市で使うものだ。 ここでは、風と人の声を聞け」
その言葉は、僕の哲学と重なった。 ジョムティンは、数字では語れない場所だった。 そして、ナンタさんやジョージとの出会いが、 この物件を“ただの資産”から“拠点”へと変えてくれた。
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