上海の街は、情報で満ちていた。 新聞、噂、証券会社の数字。 でも、それらは“点”でしかなかった。 僕が求めていたのは、点と点がつながる“線”。 そして、その線が描く確率だった。
予感は、信じない。 空気感と数字の整合性。 それだけが、僕の羅針盤だった。
ある日、友人が奇妙な話を持ってきた。 配達先で出会った男。 自称・株の達人。 「迷惑かけたお詫びに、いい銘柄を教えてやる。」 そう言って、紙切れに一つの企業名を書いた。
僕は笑った。 “裏ルートもある”──そう言う人間は、たいてい裏しか見ていない。 でも、その銘柄が気になった。 理由は、数字だった。 その企業の財務、売上、流動性。 そして、街の空気。 すべてが、妙に整っていた。
僕は、調べた。 日本の証券会社の口座を通じて、B株としてその銘柄を買った。 それは、誰かの言葉ではなく、 自分の“線”で導き出した選択だった。
数日後、株価は動いた。 上がった。 その上がり方が、自然だった。 無理のない呼吸のように、数字が伸びていった。
僕は、初めて“情報の断層”を超えた気がした。 現地の空気と、数字の整合性。 それらが、一本の線になった瞬間だった。
その男が誰だったのか、今でもよくわからない。 でも、彼の言葉は“予感”ではなかった。 偶然のようでいて、確率の中にいた。
投資とは、未来を買うことだ。 でも、未来は予感ではなく、 点と点がつながる“線”の中にある。
僕は、その線を描き始めていた。 まだ細く、まだ揺れていたけれど、 確かに、自分の手で引いていた。
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