3.18 サヌールの若者と沈黙の美学

第3章 アジア各地での投資と生活

3.18 サヌールの若者と沈黙の美学
—継承されるもの、語られないもの—

サヌールの朝は、静かに始まる。 漁師たちの舟が波間を滑り、海辺の寺院では祈りの煙がゆっくりと空へ昇っていく。 トシ先生は、村井氏のアトリエから歩いて数分のカフェで、コーヒーを飲みながらノートを開いていた。

そのカフェで働く青年がいた。 名前はアグン。 20代前半、大学では文化人類学を学んでいるという。 彼は、先生のノートに興味を持ち、声をかけてきた。

「先生は、旅を記録しているんですか?」 「記録というより、問いを探しているんです」 先生は、微笑みながら答えた。

アグンは、祖父が伝統舞踊の師匠だったという。 だが、彼自身は舞踊を継がず、学問の道を選んだ。 「祖父は、“動きの中に神が宿る”と言っていました。 でも、僕はその“神”が何なのか、言葉で知りたかったんです」

先生は、しばらく黙っていた。 そして、静かに言った。 「言葉で知ることと、身体で感じること。 その間にある“沈黙”が、文化の核なのかもしれませんね」

アグンは、目を細めて海を見つめた。 「先生、沈黙って、何かを隠すものだと思ってました。 でも、もしかしたら、何かを守るものなのかもしれません」

その言葉に、先生は深く頷いた。 「沈黙は、忘れられたものではなく、語られないことで残るもの。 それは、風景にも、芸術にも、そして人の心にもある」

その日の午後、先生はアグンとともに祖父の舞踊道場を訪れた。 古い木造の建物。 床には、何十年も踏まれ続けた足跡が残っていた。

壁には、祖父が残した言葉が額に入っていた。

「踊りとは、語らずに伝えること。 そして、沈黙の中に宿るものを、動きで呼び起こすこと」

先生は、その言葉をノートに書き写した。 そして、アグンに言った。

「君は、継いでいないようで、継いでいる。 言葉で問いを立てることも、文化の継承なんです」

アグンは、静かに笑った。 「先生、僕はまだ何もわかっていません。 でも、沈黙の意味を考えるようになっただけで、何かが変わった気がします」

その夜、先生はアトリエに戻り、村井氏にこの話を伝えた。 村井氏は、絵筆を置きながら言った。

「文化は、語られることで消えることもある。 でも、語られずに残るものは、風のように生き続ける」

先生は、ノートにこう記した。

「沈黙は、継承の器である。 そして、問いを持つ者だけが、その器に耳を澄ませることができる」

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