3.14 風の手紙
—記憶のページと、次の旅へのまなざし—
講義の最終日、教室の空気はどこか名残惜しさを帯びていた。 若い技術者たちは、それぞれの問いを胸に抱え、静かに先生の言葉を聞いていた。 「皆さんがこれから歩む道は、技術の道であると同時に、人間の道でもあります。 どうか、問いを持ち続けてください。 それが、皆さん自身を育ててくれます」
拍手は控えめだったが、深く響いた。 先生は、教室を後にしながら、心の中で静かにひとつの節目を感じていた。
その夜、先生は自宅の書斎で、旅のノートを広げた。 カンボジア、ラオス、ベトナム—— ページの間には、風景のスケッチや、出会った人々の言葉が挟まれている。
ふと、郵便受けに届いていた一通の封筒に目が留まった。 差出人は、田村さん。 ケップからのエアメールだった。
封を開けると、手書きの文字が並んでいた。
「先生 ケップの風は、相変わらず静かです。 図書館の若者たちは、少しずつ自分の言葉を持ち始めました。 リナは、“風の哲学”というテーマで小さな論文を書いています。 先生の影響ですね。
私は、相変わらず何もしていません。 でも、何もしないことが、誰かの“余白”になるなら、それも意味があるのかもしれません。
先生がまた旅に出るなら、ぜひケップに寄ってください。 風は、いつでもここにいます。
田村」
先生は、手紙を読み終えたあと、しばらく窓の外を眺めていた。 東京の夜は、ネオンに包まれている。 だが、その奥に、ケップの静かな海が見える気がした。
旅のノートの最後のページに、先生はこう記した。
「風は、記憶の中にも吹いている。 そして、手紙はその風を運ぶ舟だ。
次の旅は、“余白”を探す旅になるだろう。 何かを語るためではなく、語られないものに耳を澄ますために」
先生は、机の引き出しから古い地図を取り出した。 そこには、まだ足を踏み入れていない土地が、静かに広がっていた。
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