3.9 消えた金利生活者を追って

第3章 アジア各地での投資と生活
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3.9 消えた金利生活者を追って
—田村さんの足跡と、変わりゆく楽園の記憶—

シェアヌークビルの空は、以前よりも騒がしくなっていた。 高層ホテルの窓に反射する太陽、カジノのネオン、そして建設現場の騒音。 トシ先生は、かつての静かな海辺の町が、別の顔を持ち始めていることを感じていた。

だが、彼の目的は観光ではなかった。 10年前、ここで出会った“金利生活者”——田村さんの消息を追うためだった。

田村さんは、当時60代。 日本で貯めた500万円をカンボジアの銀行に預け、年利10%の定期預金で暮らしていた。 物価は日本の10分の1。 「口座の残高が減らないんですよ」 そう言って、缶ビールを片手に笑っていた姿が、先生の記憶に焼き付いていた。

先生は、かつて田村さんが住んでいたバンガローの跡地を訪れた。 そこには、すでに高層ホテルが建っていた。 受付の若いスタッフに尋ねても、田村さんの名前を知る者はいなかった。

「彼は、どこへ行ったんだろう」 先生は、町の古いカフェを訪ね歩いた。 ようやく、年配の店主が記憶をたどってくれた。

「田村さん?ああ、あの日本人ね。静かな人だった。 数年前に、ケップに引っ越したって聞いたよ。海が静かで、物価も安いからって」

ケップ——カンボジア南部の小さな海辺の町。 先生は、すぐにバスに乗り、ケップへ向かった。

ケップの空気は、シェアヌークビルとは違っていた。 静かで、穏やかで、どこか昔のカンボジアを思わせる。 先生は、海沿いのゲストハウスにチェックインし、町を歩いた。

そして、ある日。 小さな図書館の前で、見覚えのある後ろ姿を見つけた。 白髪に麦わら帽子、ゆっくりと歩くその姿。

「田村さん…?」 振り返ったその顔は、確かに彼だった。 「先生…!まさか、こんなところで」 二人は、再会を喜び合った。

田村さんは、今も金利生活を続けていた。 銀行の利率は下がったが、インフレも落ち着いていた。 「今は年利5.5%。でも、物価も上がってないし、まだ暮らせますよ」 彼は、笑って言った。

「でもね、先生。今は“金利”じゃなくて、“空気”で暮らしてる気がします。 朝の海風、静かな図書館、そして誰にも急かされない時間。 それが、僕の“資産”です」

先生は、深く頷いた。 「投資とは、数字だけじゃない。 生き方そのものが、価値になることもある」

その夜、二人は海辺の屋台でビールを飲みながら、 過去の話、今の話、そして“これからの暮らし”について語り合った。

「楽園は、変わる。 でも、人が楽園を見つける力は、変わらない」

先生のノートには、こう記されていた。

「田村さんは、まだ“生きている”。 そして、僕もまた、旅の中で“生き方”を探し続けている」

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