3.21 ミユキの慈善活動

第3章 アジア各地での投資と生活

3.21 ミユキの慈善活動
—与えることの静けさ—

翌朝、先生はヴィラのテラスでコーヒーを飲んでいた。 ミユキは、庭の蓮の葉に水をかけながら、ふとこう言った。

「今日は、村の図書室に行くの。週に一度、子どもたちに本を読んでるのよ」

先生は少し驚いた。 「君が、読み聞かせを?」

ミユキは笑った。 「金融の世界で数字を追いかけてた頃は、こんな時間があるなんて思わなかった。 でもね、子どもたちの目が、ページをめくるたびに輝くの。 それが、今の私の“配当”なのかもしれない」

彼女が支援しているのは、サヌール郊外の小さな村にある図書室。 古い倉庫を改装し、地元の職人と協力して作った空間だ。 本は、彼女が世界中から集めた絵本や児童書。 言語はバリ語、インドネシア語、英語、日本語——多様性がそのまま棚に並んでいる。

先生はその日、彼女とともに図書室を訪れた。 子どもたちは、ミユキを見ると一斉に駆け寄ってきた。 「ミユキおばちゃん、今日は“空を飛ぶ魚”の話?」

ミユキは、笑顔で頷いた。 「そうよ。でもね、今日は先生も一緒に読むの。日本語でね」

先生は、少し照れながらも絵本を手に取った。 子どもたちは、言葉がわからなくても、絵と声のリズムに耳を澄ませていた。

読み終えたあと、ひとりの少女が先生に聞いた。 「先生、日本にも空を飛ぶ魚はいますか?」

先生は、少し考えてから答えた。 「日本には、“心で飛ぶ魚”がいるよ。 それは、夢を持つ人の中に住んでいる」

ミユキは、その言葉を聞いて静かに微笑んだ。 「トシ、あなたの言葉も、贈り物になるのね」

その帰り道、先生はミユキに尋ねた。 「君は、なぜこの活動を始めたんだ?」

ミユキは、少し歩いてから答えた。 「富を持っていても、孤独は消えない。 でも、“誰かの時間に寄り添う”ことで、孤独は静かに溶けていく。 私は、与えることで、自分を取り戻しているのかもしれない」

先生は、ノートにこう記した。

「与えるとは、沈黙の中に手を差し伸べること。 そして、差し出した手が、誰かの夢に触れるとき、 それは富よりも深い贈り物になる」

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