3.20 ミユキとの再会
—富と静寂の交差点—
サヌールの午後、風は柔らかく、空は淡い金色に染まっていた。 トシ先生は、海沿いのヴィラに招かれていた。 そこに住むのは、旧友のミユキ——かつてニューヨークの大手銀行でディレクターを務めていた女性。 今は50代、早期リタイアを果たし、バリ島で静かな生活を送っている。
ヴィラの門をくぐると、広々とした庭に蓮の池が広がっていた。 その奥に、白いリネンのドレスを纏ったミユキが、グラスを片手に立っていた。
「トシ、ようこそ。バリの風、気に入ってくれた?」 「風も、光も、沈黙も。全部が問いをくれるよ」 先生は、笑いながら答えた。
ミユキのヴィラは、贅沢だが派手ではない。 調度品はすべてバリの職人による手仕事。 壁には、彼女が集めた現代アートと、地元の絵師による素朴な絵が並んでいた。
「ニューヨークでは、数字とスピードに追われてた。 でもここでは、時間が“溶ける”の。 何もしていないのに、何かが満ちていく感じ」
先生は、庭の石像に目を向けた。 それは、瞑想する女神の像だった。 「ミユキ、君は“富”を手放したのか、それとも別の形で持ち続けているのか?」
ミユキは、少し考えてから言った。 「富って、“選べる自由”のことだと思う。 私は今、沈黙を選べる。問いを選べる。 それが、私にとっての贅沢」
夕暮れが近づくと、スタッフが静かに食事を運んできた。 地元の食材を使った繊細な料理。 先生は、ミユキとワインを傾けながら、かつての東京での議論を思い出していた。
「昔は、“意味”を探すために働いていた。 今は、“意味のない時間”にこそ、意味がある気がする」 ミユキの言葉に、先生は深く頷いた。
その夜、先生はヴィラのゲストルームで眠った。 窓の外には、波の音と、遠くの祈りの声が混ざっていた。
ノートには、こう記された。
「富とは、問いを持ち続ける余白。 そして、沈黙を贅沢と感じる感性のこと」
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