3.3 弟子ユウタ、ジョムティンに来る
—暮らしの中で交わされる、静かな継承の時間—
ジョムティンのマンションに暮らし始めてしばらく経った頃、 弟子のユウタからメッセージが届いた。 「先生、今度タイに行こうと思ってます。ジョムティン、寄ってもいいですか?」 もちろんだ、と即答した。 彼が来ることで、この場所が“拠点”から“道場”になる気がした。
ユウタが到着したのは、乾季の始まり。 空は澄み、海風は心地よく、街はゆるやかに動いていた。 彼はバックパックひとつで現れた。 昔の僕を見ているようだった。
「先生、ここ、いいですね。観光地っぽくないのが、逆に落ち着きます」 そう言いながら、彼はマンションのバルコニーから海を眺めていた。 僕は笑って答えた。 「ここは“暮らすための場所”だ。 投資するためじゃない。まずは、暮らしてみることだ」
その日から数日間、僕たちは一緒に過ごした。 朝は市場で果物を買い、昼はローカル食堂でカオマンガイを食べ、 夕方には海辺を歩きながら、投資の話をした。
ユウタは、最近ベトナムで小さな物件を見つけたという。 「数字は悪くないんですが、周囲の空気がちょっと…」 僕は彼の話を聞きながら、こう言った。
「数字は、空気を補強するものだ。 空気がなければ、数字はただの記号だ」
ユウタは頷いた。 「先生、最近ようやく“確率的確信”って言葉の意味がわかってきました。 現地の空気、生活の流れ、人の動き—— それを感じたとき、数字が意味を持ち始めるんですね」
僕は嬉しかった。 彼が、言葉ではなく“感覚”で理解し始めていることが。
滞在中、ユウタはマンションの管理人とも仲良くなった。 タイ語はまだ片言だったが、彼の姿勢が人を惹きつける。 「この子、いい目してるね」 管理人のピムさんがそう言ったとき、僕は少し誇らしかった。
最終日の夜、僕たちは海辺のバーで静かに酒を飲んだ。 風が心地よく、波の音が遠くで響いていた。 ユウタが言った。
「先生、僕もいつか、こういう場所に“根”を持ちたいです。 投資じゃなくて、暮らしの拠点として」
僕はグラスを傾けながら答えた。 「それができたら、もう“弟子”じゃないな。 “同志”だ」
その言葉に、ユウタは笑った。 そして、静かに海を見つめた。
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