小籠包の湯気が消えかけた頃、 僕は街の奥へと足を踏み入れた。 観光客の地図には載っていない通り。 そこに、証券会社があった。
看板は色褪せていた。 入口のガラスには、手書きの株価一覧。 中に入ると、蛍光灯の光が白く、 机の上には紙と電卓。 パソコンは、まだ“未来”の道具だった。
社員は三人。 電話のベルが鳴るたびに、誰かが走った。 その音が、都市の心拍のように聞こえた。
僕は、何も知らなかった。 株式とは何か。 チャートとは何か。 でも、何かが“動いている”ことだけは、わかった。
この場所は、小さかった。 でも、確かに“点”が刻まれていた。 経済の点。 人間の点。 そして、僕自身の点。
窓際の男が言った。 「今はまだ小さい。でも、ここから始まる。」 その言葉が、妙に響いた。 まるで、昔読んだ本の中の一節のようだった。 “株とは、未来を買うことだ。” そんな思想が、僕の中で静かに目を覚ました。
僕は、日本の証券会社を通じて、B株を買った。 銘柄は、どこか無骨で、でも力強かった。 名前に惹かれたわけではない。 その企業が、都市の“点”に見えたからだ。
初めての株。 初めての数字。 初めての震え。
幻想でもいい。 それが最高なら、 その中で生きてしまえばいい。 この都市は、そう教えてくれた。
小さな証券会社の片隅で、 僕は、自分の“経済”を始めた。 それは、誰かの成功をなぞるものではなく、 自分の未完成を信じる旅だった。
そしてその旅は、今も続いている。 点は、やがて線になる。 線は、物語になる。 僕は、その物語を描いている。
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