第一章 旅の原点と人生の転機 1.9.旅の原点と人生の転機(9) 「実は、俺もやられた。 去年、ベトナムのスタートアップに。 数字は完璧だった。 俺は野望を持ってた。 でも、みんなに反対された。 それでも少しだけ入れた。 結果は──プラマイゼロだった。」彼は、笑った。 その笑いは、悔しさでも、... 2025.08.29 第一章 旅の原点と人生の転機
第一章 旅の原点と人生の転機 1.8.旅の原点と人生の転機(8) その夜、僕はバンコクの屋台で、古い友人と再会した。 彼は、かつて一緒にバックパックを背負っていた仲間。 今は、現地企業の財務を見ているという。 スーツの襟元に、少しだけ旅の匂いが残っていた。ビールがぬるくなり始めた頃、僕は語った。 あの銘柄... 2025.08.28 第一章 旅の原点と人生の転機
第一章 旅の原点と人生の転機 1.7.旅の原点と人生の転機(7) 損失を抱えたまま、僕は次の街へ向かった。 マニラだったか、ホーチミンだったか。 空港の喧騒の中で、僕はノートを開いた。 「予感ではなく、確率。 でも、確率にも罠はある。」 その言葉の下に、細い線を一本引いた。その線は、やがて“問い”になっ... 2025.08.27 第一章 旅の原点と人生の転機
第一章 旅の原点と人生の転機 1.6.旅の原点と人生の転機(6) 株価は、少しずつ戻り始めた。 ニュースも、街の空気も、好転していた。 僕は、静かに期待した。 数字が、再び整い始めたように見えた。でも──それは、罠だった。 再浮上の瞬間、株価はさらに下がった。 まるで、誰かが“希望”を餌にしていたかのよう... 2025.08.26 第一章 旅の原点と人生の転機
第一章 旅の原点と人生の転機 1.5.旅の原点と人生の転機(5) じわじわ上がり安心し始めた後、翌週からは、株価は急激に下がっていった。 静かに、確実に。 まるで、誰かが息を潜めて売っているようだった。僕は、画面を見つめた。 数字は嘘をつかない。 でも、数字はすべてを語らない。“裏ルートもある”──その言... 2025.08.25 第一章 旅の原点と人生の転機
第一章 旅の原点と人生の転機 1.4.旅の原点と人生の転機(4) 上海の街は、情報で満ちていた。 新聞、噂、証券会社の数字。 でも、それらは“点”でしかなかった。 僕が求めていたのは、点と点がつながる“線”。 そして、その線が描く確率だった。予感は、信じない。 空気感と数字の整合性。 それだけが、僕の羅針... 2025.08.24 第一章 旅の原点と人生の転機
第一章 旅の原点と人生の転機 1.3.旅の原点と人生の転機(3) 小籠包の湯気が消えかけた頃、 僕は街の奥へと足を踏み入れた。 観光客の地図には載っていない通り。 そこに、証券会社があった。看板は色褪せていた。 入口のガラスには、手書きの株価一覧。 中に入ると、蛍光灯の光が白く、 机の上には紙と電卓。 パ... 2025.08.23 第一章 旅の原点と人生の転機
第一章 旅の原点と人生の転機 1.2.旅の原点と人生の転機(2) 1997年、上海。 貨物船の甲板から降りた瞬間、 空気が違った。 湿度と熱気が混ざり合い、 都市の欲望が、皮膚に触れてくるようだった。大通りの角に、小さな店があった。 鉄の蒸籠から立ち上る湯気。 小籠包、一籠、数元。 それは、値段ではなく“... 2025.08.22 第一章 旅の原点と人生の転機
第一章 旅の原点と人生の転機 1.1.旅の原点と人生の転機(1) —26歳、貨物船の甲板で風を知る—人生が動き出す瞬間は、いつも静かだ。 誰にも告げず、誰にも祝われず、 ただ、風のように始まる。 世界の広さに気づいたとき、 僕は何かを得ようとしたのではない。 何かから離れたかったのかもしれない。 欲望の声... 2025.08.22 第一章 旅の原点と人生の転機
第0章 エピローグ 0.2 エピログ(2) 僕の名前は、トシ。 厳格なサラリーマンの父と、専業主婦の母のもとで育った。 資金もノウハウもなかった、普通の家庭。 お金も、学歴も、何もなかった。 ただ、祖父が絵描きだった。 自由で、創造的で、風のように生きる人だった。 僕は、その背中に、... 2025.08.22 第0章 エピローグ